浮雲/林芙美子 1951年 評価3


 第二次世界大戦中、ベトナムに赴任した農林省の研究員富岡とそこにタイピストとして働いていたゆき子は不倫の関係で結ばれる。しかし戦争が終わり、日本に残した妻の元に帰った富岡は、ゆき子に冷たく当たる。傷心のゆき子は外国人の娼婦にまで身を落とすが、富岡も事業が上手く行かず、妻にも死なれて自堕落な生活を送りはじめ、いつしか二人の距離は近づくようになる。

 とにかく55年の成瀬巳喜男による映画版が完璧な出来であり、その原作ということで読んでみたのだが、富岡の心情が、映画で受ける印象とはかなり異なる。映画では最後の最後でゆき子に寄り添うようになるのだが、原作では、どこまでも自堕落で、自堕落だが運が良いのか何とか生きていける富岡は、ゆき子の死さえ傍観者的な視点で眺める。戦後の荒れ果てた日本の土地で絶望しか感じられず、死ぬことさえ出来ずに、ただ生きていくしかない男と女は、どんな状況になっても甘いことさえ考えられない。

 多分それが現実的なのだろうが、終始暗い気分で気が滅入る小説である。文学的に、人間の心情、特に男にとってはよくわからない女の本性を抉る様に文字にする部分はドストエフスキー的であるし、自然や雰囲気の描写も卓越したものがあるのだが、どうも全編を覆うどんよりした暗さが読んでいてつらい。