キリマンジャロの雪/アーネスト・ヘミングウェイ 1922〜36年 評価4


 ヘミングウェイの主な長編作品は学生時代に全て読んでいるが、最後に読んだ「日はまた昇る」があまりにつまらない内容だったため、「武器よさらば」「誰がために鐘はなる」「老人と海」はよかったとは思っているが、作家として良い印象が残っていないのだが、実は長編よりも短編をたくさん残しており、本作は男気を感じる作品を厳選しているということで、読んでみることにした。本書は、1922年から1936年に書かれた13の短編集である

 ヘミングウェイは、自身、ジャーナリストとして第一次世界大戦、スペイン内乱、第二次世界大戦に赴いたこともあり、行動派の作家といわれている。そのため、作品は異国情緒に溢れたものが多く、そのどれもが的確で簡潔な描写により、読者にその雰囲気まで感じさせる。確かに生活の会話の一場面を切り取ったような起承転結がない内容の物は、物語としてはどうかというものも多いが、その自然な会話や無駄をそぎ落とした文章というのは、ややドラマチックに過ぎる長編とは異なる魅力を放っており、短編に人気があるのもうなづける。

 その中では、一人マス釣りの風景を延々と描く「二つの心臓を持つ大川」は釣り好きにとってはたまらない描写の数々だろうなと思う(ヘミングウェイは釣り好きなことでも有名)し、プレイボーイとして生きてきて、キリマンジャロ山麓で負った傷が元で壊疽死を迎える男の最後の心情を綴った「キリマンジャロの雪」、サファリで夫の本性を見た「フランシス・マコンバーの短い幸福な生涯」という中編は、短い時間空間を扱った作品ながら、非常に中身が濃い作品である。