アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス 1966年 評価5


 32歳でありながら6歳児の知能しかない知的障害者のチャーリーは、二十日ネズミによる実験を通して、知能が急上昇する手術を開発した大学で、脳の手術を受けることになる。チャーリーは飛躍的にIQが上昇するが、自分に先立ち手術を受け、天才的な頭脳を持ったネズミのアルジャーノンが、次第に凶暴になり、不可解な行動をとるようになるのを見て、残る時間で自分のなすべき行動を悟る。

 この奇抜な設定を疑ってかかってはいけない。この設定から本小説はSFに分類されてはいるが、それはそれとして、読みどころは、ずば抜けた知能を持つようになったチャーリーの、IQに比べ、ついていかない6歳の心の苦悩だ。果たして知能を授かったことは幸せだったのか、なかった時より幸せになれたのか。作者は「24人のビリー・ミリガン」も書いた人で、精神分裂者の描写はお手のもので、チャーリーの心の葛藤が胸に痛い。そして、チャーリーと周りの人々との関係の変化、肉親との再会などを通じて、主人公の境遇だけでなく、私、はたまた世界の中で、知能というものの持つ危険性さえ認識させ、人生に教訓を与えてくれるという素晴らしい小説だ。