カラマーゾフの兄弟/ドストエフスキー 1880年 評価:3


 「罪と罰」の新訳版を読み、凄い作家だということを認識したため、同じく代表作である本作を読んでみた。

 奔放で低俗なドミートリー、インテリだがひねくれた信念を持つイワン、信仰に篤く聖人に近いアレクセイという、フョードルを父に持つ異母兄弟(次男と三男は同じ母)を中心に、前半はカラマーゾフ家のそれぞれと周辺人物の思想を中心に描き、後半は一人の女性に惚れたフョードルとドミートリーの確執とフョードル殺害という事件を巡る展開となる。

 文庫本で2000頁をゆうに超える大作だが、主に描かれているのは4日間とフョードル殺害後の裁判の1日。1/4は話の本筋とはあまり関係のない宗教的な話であり、多くの紙面が割かれる裁判の場面は、現代(特に日本では)では考えられない、検事と弁護人の延々と続く演説であり、正直退屈な場面が多い。

 また、登場人物に一人の人間として共感できる部分も多かった「罪と罰」と比べるとどうも常人離れした登場人物たち、無宗教の私にはつらい宗教談義の多さ、現在と通ずるところが少ない環境が、感情移入を難しくする。また、元々二部構成の構想であったが作者の死去でならなかったということで、作者に「この本の主人公」と名指しされ、前半に丁寧に描かれ、最も良人として共感できたアレクセイの出番が後半にあまりないのも不自然に感じる。それでも父殺しの裁判後のエピローグにおけるアレクセイと少年たちの、熱いが穏やかな’蘇り’をめぐるやり取りが、それまでがどろどろした展開だったこともあって、瞬間的にまぶしい光を放って輝いているのも事実である。

 私にとっては、正直高い点はつけづらいが、時間的に短い期間を多大な文量で描いていながら、それぞれのつながりに破綻をきたしているわけではなく、また、それぞれの宗教的、心理的描写も全体として一貫しており、とてつもないレベルで完成度の高い作品であることは確かであるし、それぞれの語る言葉は全編を通して深く、世界的に名著と認められていることは十分に納得できる。