スタンド・バイ・ミー(恐怖の四季 秋冬編)/スティーヴン・キング 1982年 評価:5
一般的にはモダン・ホラーの大家として通っているスティーヴン・キングだが、「ショーシャンクの空に」「デッド・ゾーン」など、ホラーに分類されない作品を基にした映画及び映画版「スタンド・バイ・ミー」も好きなことから本文庫本を読んでみた次第である。本作には中篇「スタンド・バイ・ミー」と短編「マンハッタンの奇譚クラブ」が収められている。
夏休み。12歳の仲良し4人組の一人が、数十キロ離れた森に、道に迷って列車に撥ねられた少年の死体があることを聞きつけ、彼らは一泊二日の計画で、徒歩で現場に行く。
筋を書くとこれだけのことだし、特に大きな事件は起きず、取るに足らないようなエピソードも多いのだが、一昔前の小学生なら誰もが経験したような内容が瑞々しい描写で表現されており、まさにこの目で見ているかのような現実味を感じさせる。
私は子供のころ、決して悪がきではなかったが、普通に本作の4人に近い行動をしていたものだ。沼地でザリガニをザリガニの尻尾の肉を餌に釣ったり、ガマ蛙の口に爆竹をくわえさせて爆発させたり、水風船を団地の最上階から人めがけて落としたり、干してある布団に投げつけたり、そんなことは普通の子供なら誰でもやったことである。なので、本作で語られるいくつかのエピソードにとても親近感がわくという、あまり他の小説では味わえない感慨を覚える。今の子供たちがこのような思い出をほとんど持たないで育っているというのはやはり寂しいものではないだろうか。
私が本作で印象に残っているのは語り部であるゴーディ(私が4人のうちの誰に似ているかといえば、ゴーディだろう。ガキ大将となる資質はなく、根は真面目で馬鹿になりきれないが、馬鹿とは上手くやっていける)が、一人早く起きて森の中で鹿に会うシーンである。学生時代にアメリカに行ったとき、ロッキー山脈の森の中で不意に鹿類の大きな動物に会ったことがある。静寂で、まさに絵を切り取ったような空間。そんな澄んだ思い出を思い起こさせた。逆に映画版「スタンド・バイ・ミー」では朝もやの映像が、小学生のときの昆虫採集のため朝早く森に繰り出したときの思い出とシンクロし、とても印象に残っている。
本作に納められた2作品の文中に更にちょっとした小編が計3編収められており、これらは短いながらもとても魅力的であり、ストーリー構成力など総てに秀でている作家なのだろうと思う。また読んでみたい作家となった。