落日燃ゆ/城山三郎 1974年 評価:4


 太平洋戦争のA級戦犯死刑囚の中でただ一人の文官であった広田元首相、元外相の生涯について、史実を基に綴った作品。

 歴史が嫌いだった私は広田元首相を全く知らなかったわけだが、軍部の力が増大し、暴走を始めた1930年代に首相、外相を勤め、海外諸国との和平工作に奔走し、最後まで戦争を避けよう、終わらせようとした人物らしい。人としても極めて任務に忠実で、自身を主張しなかった出来物として描いている。確かに地道に、誠実に任務を勤めた姿勢に共感するものの、一方で、軍部に対して強くいえなかった結果、戦争を助長したという評価もあるようで、ここらは今となってはどちらが正しいとは言い切れないとは思う。

 本筋である、出来レースのように広田が死刑にもっていかれる過程よりも、誠実であった広田でさえ止められなかった軍部の暴走に戦慄を覚える。本書を読むと、今の中国や朝鮮の日本に対する態度に対して、太平洋戦争時の日本軍の様々な裏切り、虐殺を考えれば、批判ばかり出来るわけではないとも思う。また、軍の暴走は国民には良い様に伝えられ、国として戦争に向かったという社会の構図は、現代においてもさほど変わっていないのではないかというところにも怖さを感じる。

 中学時代の83年に4時間半以上に及ぶ映画「東京裁判」が公開された。興味はあったが4時間半が気になって観なかった。多分当時観ていたらつまらなかっただろう。この本を読んだ今なら、裁かれる人の問われた罪を認識できているので、興味を持って観られると思う。