武士の紋章/池波正太郎 1994年 評価:4


 人生も半ばを過ぎ、自分の体がほぼ自分の意思通りに動くだろう期間は残り30年程度となり、今後の人生をどういう心持で生きていくべきかを考えるため、日本の偉人、特に侍がどのように生きたかということに以前にも増して興味を持ち始めていることを否定できない。元々小学生の頃から、真田十勇士など歴史物を読むのが好きで、映画も洋邦問わず男の生き様を描いた作品が好きだった私は、回り回って元の鞘に収まりつつあるのかと感じている。

 そこで、テレビ番組として好きだった「鬼平犯科帳」の原作者である池波正太郎の作品を、とりあえず初めて読むにあたり、題名もそのままの「武士の紋章」という随筆集に手をつけてみた。真田信之、幸村といった戦国武将から、牧野富太郎という昭和中期の植物学者まで、自分の信じる道を生きた8名の男の物語である。

 1作品30〜40ページ程度の随筆なのだが、上手くまとまっているし、対象者の魅力を的確に伝えていて、それぞれから何かしらの教訓を得ることができる。戦国時代の侍の行き方の清さ、自分を信じる男たちの輝く人生には感化されることも多く、さすがは時代小説の第一人者という筆致であり、特に真田兄弟の生き方には心揺すぶられるものがあるので、次は大作「真田太平記」を読んでみたいと思う。