復活の日/小松左京 1964年 評価:5


 宇宙から飛来したウイルスを基に、これまでにない爆発的な増殖率と、自身の存在を隠して増殖する特性を持つウイルスが製造された。生物化学兵器としてとてつもない力を持つこのウイルスを産業スパイが手に入れるが、運搬中にこのウイルスを載せた飛行機が墜落。ウイルスはばら撒かれ、1年もしない間に南極大陸にいる各国調査団計約1万人を除く人類は滅亡する。さらにアメリカ西海岸に大地震が起こることが想定され、既に制御する人間がいなくなった米ソの核兵器システムは、この地震を敵国の攻撃と認識し、南極を含む全世界に核ミサイルを発射する事態になる。

 本作で作者が言いたいのは、死にゆく文学者が生き残った人類にハムを通じて訴えることを目的に、テープに録音し繰り返し発信する「科学者は国家間の争いのためにその能力を利用されるが、本来哲学者は科学者とともに人類の発展のために手を取り合うべきであった」といった主旨の懺悔の念であろう。また、人類というものは45億年という地球の寿命の中のほんの一瞬の歴史を生きているだけであり、人類の滅亡など宇宙的サイクルの一環の中で取るに足らないものであるという理論と併せ、このちっぽけな地球上で小賢しい諍いを延々と続ける人類に疑問を投げかける姿勢に共感以外ない。

 「日本沈没」と同様、ラストはなんとなく先が見えない終わり方にはなっているものの、ストーリー的にもウイルスの蔓延だけではなく、更に最後に一ひねりしていてよくできた内容となっており、完成度は高い。生き残ったものたちの描写は、非情な切なさで、本作は一度80年に映画化されているものの、成功とはいえない結果になっているが、再度身を入れた映画化がなされれば、素晴らしいものになるのではないかと思う(「惑星ソラリス」の故タルコフスキーがベストだが、願わくばそのような作家性のある監督に製作してもらいたい)。

 しかし、小松左京作品は、昨年12月に「日本沈没」を読み、今年の大震災。本作の内容も決して起こりえないものではなく、今の世界を見ているととても全人類が一つの方向を目指しているとは考えられず、身に詰まされる恐怖を感じる。また、作品の特徴として、その分野のことを徹底的に調べ上げ、科学的根拠を延々と書きすぎるくらい書くということがあげられる。本作もそうで、その方面が苦手な人には理解しようとする前に読むのを苦痛に感じる人もいるのだろうと思うが、理系出身の私にとって、確かに書きすぎとは思うが理解はできるので、それによってとても物語の信憑性が上がる。この点で他のSF作品と確実に一線を画しており、その他の作品も今後読んでみようと思っている。