そうか、もう君はいないのか/城山三郎 2008年 評価:4


 城山三郎は強面の面構えと経済小説の開拓者ということで、何か生真面目で鋭利な印象を持っており、その書いてきたジャンルからも著書を読んだことはない。ところが数年前に本書が話題になり、これまでの印象とは異なる内容であり、その題名が印象的であることから、読んでみた次第である。

 2000年2月の妻の死後に城山が妻に関して書いていた遺稿を集めたエッセイである。思いつくまま二人の思い出をつづったという内容であり、あまり文学的にどうこう言うものではない。が、亡き妻への素直な愛情と感謝の気持ちが溢れており、娘のあとがきと合わせ、泣かせる。

 練りこんだ小説でない分、強面とは裏腹の夫婦のほほえましいエピソードに暖かい気持ちになる。また、死後6,7年経過後に書いたものであるため、城山の記述はセンチメンタリズムに陥らない節度を持った内容となっている反面、娘のあとがきは、妻を亡くした後の城山の客観的な寂しい姿の描写に重点を置いた回想になっており、主観的、客観的描写の違い、時間による記憶の衰退なども感じさせ、興味深い。