蜂須賀小六/戸部新十郎 1987年 評価:3


 「アンナ・カレーニナ」が存外つまらなかったこと、最近の沈んだ世相の中、強い生き方に影響されたいという希望から、好きなジャンルである戦国武将物からチョイス。20年ほど前に読んだ「前田利家」が面白かった記憶がある戸部新十郎の著書の中から、戦国時代、秀吉の部下として活躍した蜂須賀小六を読んでみた。

 小六は正勝、家政の親子のことを指す。この2世代の約40年について描かれているのだが、小説は正勝の死去で終わるので、実際の主人公は秀吉に忠実に仕えた正勝になる。竹中半兵衛や黒田官兵衛とともに戦においても政治においてもよく働き、秀吉から阿波一国を与えられても、自分は秀吉の側近でいたいとして辞退し息子の家政に譲るほど、秀吉のそばに仕えた正勝。その忠誠ぶり、ぶれない生き方、乱世を達観した死生観は、男として憧れを感じ、当初の本書読破の目的はまま達成できた。

 ところで、本書を読んでいるとき、ある種の違和感をもった。歴史物、特に戦国時代物では、登場人物は史実として存在するが、当然遠い昔の話なのでそこにフィクションが入ることになる結果、小説毎に、描かれる武将たちの人物像がそれぞれ少しづつ異なることになる。各武将については少なからず、自分の中に像ができているため、それと異なると違和感となるのだ。また、本書の場合、いろいろな武将が出てきて、○○は昔の知り合いというつながりを無理やりに創作している感じが、作り物感を助長したのも確か。また、戸部新十郎の文体は、短めの文章で史実を追っていくようなところがあり、戦国時代の40年というのはとてもいろいろなことが起こっているので、1200ページあるにしても急ぎ足の印象になってしまい、平均的な評価になるのが妥当。