わが回想のルバング島/小野田寛郎 1995年 評価:4
終戦から30年目の1974年にフィリピンのルバング島から引き揚げた(発見されたという表現が的確でないことは本書を読んでわかった)小野田氏が、引き揚げの立役者である鈴木紀夫氏の死及び遺体の発見を機に執筆した回想録。
引き揚げ当時5歳の私にとって、小野田氏は、72年にグアム島で発見された横井庄一氏とともに、終戦になったことを知らずに、異国の地で細々と生きてきたかわいそうな人というだけの印象しかなかったが、本書を読み、小野田氏の生き様がもっと崇高な、固い信念に裏付けられていたことがわかった。
小野田氏は県議会議員の父をもち裕福な生活の中、陸軍甲種幹部候補生として、スパイ活動を行う士官学校に入学し、卒業後、情報将校として任務に就くというエリートであった。その任務への忠誠は極めて頑固というか忠実で、30年間、日本の復活を信じ、確かに「戦い続けてきた」のだ。何回にもわたる日本からの捜索部隊の存在にもちろん気がついていたので、発見されたのではなく、命令により引き揚げるという形になった。
とにかくその意志の強さ、自分の任務を果たすための環境への適合性というのは凄まじい。この意志は現代人に欠けているものであり、確かに今この意志を持っていてはめんどくさい人間になるのかもしれないが、忘れてはいけない大切なものだということも感じさせる。