人生論・愛について/武者小路実篤 1969年 評価:2(評論集として)


 本書は「人生論」「愛について」「真理先生の遺書」「新しき村に就いての対談」など、実篤が書いた評論、随筆等を集めたもので、実篤の実直な思想を知ることが出来る。

 正直に言って、面白くはない内容である。色々形は変えているが、どの評論、随筆も内容が似通っていて、何度も実篤の思想が繰り返されるし、特に「新しき村に就いての対談」は現代にしてみればあまりにも理想主義的すぎるので、あまり馴染めない。

 この類の本は面白く興味を持って読めるかが重要なのではなく、本の言葉から、人生の教訓となるようなものをどれほど拾えるかということが重要なのであるが、良い言葉だと感じる文は、他の本でも色々書かれていることで、特に目新しさは感じない。例えば実篤がよく書く「自分自身を完成させる」というのは私にとっての教科書「人間の土地/サン・テグチュベリ」の「努めなければならないのは自分を完成させることだ。試みなければならないのは山野の間にポツリポツリと光っているあのともし火たちと心を通じ合うことだ。」と同義である。この本をどの時期に読んだか、ということが重要度に影響するものと考えられるのであるが、40を越えた今初めて読む、またこれまでも同様な本を読んできた私にとっては、重要度は決して高くないという評価になってしまう。

 このような内容の本の評価というのは難しい。例えば前述の「人間の土地」は私にとって教科書ではあっても、本としての面白さを求める人には薦められるものではなく、一般的には2か3になってしまう。しかし、大切さというと5なのである。本書もその類であり、私としては、これまで読んできた本や雑誌、映画で得てきた教訓以上に身に沁みる言葉が多数あるわけでないので、冷静に本としての面白みで評価すると2になってしまう。これは同じ思想を、本書に収められている各評論、随筆で繰り返していることから飽きが来てしまうためで、例えば「人生論」だけなら3だと思う。