重力ピエロ/伊坂幸太郎 2003年 評価:1

 私にとって評価1(最低点)というのは、映画にしても小説にしても最後まで鑑賞、読破できなかった場合に下す判断である。本作は後に述べる理由により途中でやめたくなったものの、「このミステリーがすごい!」3位になっていることや映画化もされたことから、まさかこの予測できる展開にはならないだろうな・・・と希望を持って読み続けたのだが、その儚い希望さえ裏切られた。限りなく1に近い評価2である。

 映画化もされているし、著者の他の作品も良く知られているので、実は結構期待していたが、かなり早い段階でがっかり。これは文学ではなく、薄っぺらな風俗小説だ。タイプとしては海堂尊に似ている。

 読んでいるとミステリーでもなんでもない内容なので、ネタバレというほどでもないが、泉水と、母親がレイプされた結果生まれた春の兄弟による、レイプ犯に復讐するまでの物語。何度も繰り返すが、ミステリーとはいえない。

 まず、気になって仕方ないのが兄弟を中心とした会話の数々。そんなことを、その種の人間が、その状況で発言するわけがないというもののオンパレード。洒落た会話かもしれないが、そんな会話をする人間が実際にいるわけがないし、どんな登場人物でさえ、緊迫するような場面でさえ、その姿勢を崩そうとせず、ほとんどの登場人物に信憑性がないどころか同じ人類とさえ考えられない。ただ単に作者が言いたいことを小説の場を借りて書いているというだけのようだ。なので、登場人物の人格形成が極めて希薄で、他の世界の出来事ぐらいにしか感じられないのだ。

 これは人格形成を原因とするものなのかもしれないが、春のストーカーをしている「夏子さん」は普通の女性から絶世の美女に整形で変わったという全く信憑性を書く設定であるのみならず、ストーカーとしての雰囲気が全くないとか、春は何件も壁への落書き、放火を繰り返しているのに捜査の影も見えないとか、話を進めるためにかなりいい加減で都合の良い展開が鼻につく。

 付属の解説を読むと、作者の作品は軽快な語り口と洒落た会話によるスタイリッシュさというのが共通点の売りらしい。昔から文学に勤しんできた私としては、とても受け付けない作風で、後に何も残らず、この他の作品をあえて時間を割いて読む必要はないだろう。志賀直哉やドストエフスキーといった文学の最高峰の作品を読んだあとなので本作は厳しめな評価になっているのかもしれないが、物語の深みが物足りないこと甚だしくても、すらっと面白く読めればよいものが確かに日本において流行っているという事実があるみたいだが、「チームバチスタ」も評価できない私にとって、やはりこの種の小説は読むに値しないということなのだろう。