友情、初恋/武者小路実篤 1919年(友情)、1914年(初恋) 評価:3
「初恋」と「友情」が収められているものを読んだ。「初恋」は武者小路自身が16歳〜18歳の間に恋した自家の長屋に住んでいた3歳年下のお貞さんの回想録である。「友情」はフィクションの形ではあるものの、「初恋」と続けて読むとわかるが主人公の野島は明らかに武者小路自身がモデルである。野島は、友人の妹である杉子をひと目会ったときから愛するようになるが、杉子はその事に気付きながらも野島の親友である大宮に惹かれていく。不意に大宮は海外に勉強にでるが、1年後、大宮から届いた手紙から野島は驚愕の事実を知ることになる。
国語で必ず出てくる著名人、白樺派の武者小路実篤だが、この作家の著書を読むのは初めて。双方とも報われぬ淡い恋を描いているが、ここまで赤裸々に、虚栄心が全く捨てられて書かれた作品は初めてである。双方とも主人公の一方的な愛と、その心の移り変わりが描かれているが、正直、今の時代ではこのような考え方はストーカーと間違えられても不思議はない。それは当時としては忍んでいれば普通のことだったのかも知れず、その描写よりもとてもオープンな女性像が一番の魅力ではなかったかと思う。
理想の女性についてよく知ることもないまま、自身の中でさらに理想化していき、そして彼女の一挙手一投足に、勝手な解釈をつけ、勝手に落ち込んだり有頂天になったりする。今となっては告白してしまうが、高校時代に似たようなことを三度し、うち、2回は告白し、成就しなかった経験を持つ、かつて純情可憐であった私は、主人公たちの心持、そしてふられたときに何かを誓う気持ちも、非常によくわかり、わかりすぎて笑ってしまうこともたびたびだった。私にとっては高校時代に読めば間違いなく評価5であるが、それを糧に、結果として良い経験になっていると振り返ることが出来る今となっては、その点数はつけられないのが正直なところ。