宣戦布告/麻生幾 1998年 評価:2
特殊工作員11名を乗せた北朝鮮の潜水艦が福井県敦賀半島の水晶浜に漂着。北朝鮮の意図がわからないまま、日本の警備は警察、機動隊、自衛隊によるものへ発展していくが、日本の軍隊のありようの虚を付く形で北朝鮮の工作員は攻撃を仕掛けてきた。その時、日本はどう対応するのか、というのが本筋。
映画化もされた作品だが、最大の欠点は、北朝鮮工作員達の日本侵入の目的がはっきりしないことだ。原子力発電所が集中する敦賀半島に上陸したことの危機感は、作品の最初に触れられているのだが、結局最後まで原子力発電所との接点はない。つまり、敦賀に上陸した意味が全く描かれない。原子力発電所の内部がどうなっているかは極秘事項で、作者もその情報がつかめなかったのだろうが、工作員が原発をのっとれば話の展開は大きく変わったはずで、途中で原子力発電所というアイテムが投げ出された格好になったのでは小説としての体をなしていない。
それと、話の本筋に関係のない記述が非常に多いというのも減点材料だ。私は普通、1分1ページの速度で読むのだが、本作は30分で50ページ以上読める。それは軍事的な、一般人には不要な描写が多いこと、登場人物が多く、それぞれの性格付けが甘いため誰が何を言ったかに興味が持てず、読み手に集中力を求めない内容になっていることが要因だと思う。結局登場人物の誰にも感情移入できず、薄っぺらな印象である。まぁ、本作の主眼は「誰それの気持ちになって・・・」というものではなく、自衛隊はどうあるべきかという思想を考えさせるということであるのなら、これもひとつの手腕ではあるのだが。
実際の国外の敵に向かい合った時の自衛隊の無力さ、法律の矛盾をつく観点、それに縛られる政府、自衛隊幹部のうろたえようはとてもよく表現されているため、飽きて途中で読むのを止めようということはなかったため、評価は2となる。