マークスの山/高村薫 1993年 評価:3
93年第109回の直木賞を受賞し、95年には中井喜一主演で映画化もされた。
精神障害者である水沢が、偶然物取りに入った家で、現在は社会の成功者となっている者たちが属していた大学の山岳同好会にかかわる殺人事件の秘密を知ったために、彼らをゆすって大金をせしめようとする。
このようなストーリーなのだが、その裏では警察や司法局などの内部のさまざまな思惑を丁寧に描くことで単純なミステリーと呼ぶのには抵抗を覚える。というより、水沢が2名を殺害し、その後、山岳会関連で起こった昔の殺人現場である北岳まで逃亡するというストーリー展開自体にはかなりの無理があり、個人的にはミステリーとしては何も取り上げるべきものはないと思う。
精神病院と刑務所で長年過ごし、記憶を断片的にしか残せず、別に身体を鍛え抜いているわけでもない水沢が、必殺仕事人まがいの荒業で殺人をすること自体ありえないし、二人殺害してもまったく足取りがつかめないというのは偶然の上塗りにもほどがある。
その本筋以外のもろもろの警察関係者のやりとりや、社会の成功者となった者たちの行動に関する筆致は引き込ませるものはあるが、なにぶん話の軸に信憑性が感じられないため、近いうちに記憶から消えていく作品。