亡国のイージス/福井晴敏 1999年 評価:4

 「終戦のローレライ」は無茶な設定は感じられたものの、福井晴敏という作家の文章はとても好きであった。その「ローレライ」は映画化を前提に書かれていたため、ある程度無理な設定も致し方なかったのかもしれないという希望を持って、本作を読んでみた。

 結果、この映画的な展開というのはこの作家の持ち味なのだなということが結論付けられた。持つ主題の崇高さ、それを登場人物全体から築きあげていく構成はとても文学的なのだが、ストーリーはいやな言い方をすればハリウッド的だ。特に2作とも軍隊を描いていることもあって、中心人物たちが肉体的超人性をもっており、それが時に胡散臭さ、くどさを感じさせる。まだ2作しか読んでいないが、この作家は日常的なものを舞台としたものを書くには限界があるのではないかと感じずにはいられない。

 しかし、あるひとつの動作、思考を文章にするときに必ず的確で深みのある修飾語をつけることにより、すべてが色彩を持ち、視覚化されるという点はこの作家の強みであり、またそれが私の好きな文章であるため、高評価とはなる。