終戦のローレライ/福井晴敏 2002年 評価:4
本作執筆の動機は、作者である福井の著書「亡国のイージス」を読んだ映画監督からの要望だそうで、映画化が前提とされて執筆活動に入ったということである。
しかし文庫本にして全1600ページ以上に及ぶ大作であり、とても128分の映画に収まる内容ではなく、そのためか映画は酷評されている。端的に言えば、少女の超能力を利用した驚異的な探知装置を装備する潜水艦を中心とした物語であり、綿密な背景の説明がなければとても嘘っぽい内容で、映画化に向いている内容ではまったくないといえよう。一方で小説側では、後半部分は映像化を想定したような感動を呼ぶような展開や描写がやや過剰になっていることも否めない。
探知装置システムだけでなく、潜水艦一艇が米国海軍軍隊を敵に回すというあり得ない内容でありながら、さもありなんと思わせるのは、ストーリー展開だけに力を注ぐのではなく、登場人物それぞれに丁寧な描写があり、彼らが各々の行動をとった動機がはっきりとわかるからである。また、表現力豊かな文章も私にはしっくりくる。だから、孤軍奮闘が始まる3/4まではとてもすばらしい小説だと思う。