「そよ風の贈りもの/ホイットニー・ヒューストン」 85年  評価5


 85年に発売された、ホイットニー・ヒューストンのデビューアルバム。本作からは6曲がシングルカットされ、いずれも大ヒットを記録。あっという間に彼女はスターダムに駆け上がった。

 その昔、私がアルバムをレンタルするかどうかの判断基準は、「そのアルバムからシングルカットされた曲の中に、自分の好みの曲が3曲以上あるかどうか」であった。本アルバムにはテディ−ペンターグラスとデュエットした「ホールド・ミー」がアルバム発売前にシングルカットされており(日本でもタイヤのCMに使用されていた。「ベストヒットUSA」の番組中のCMであったため、ご存知の方も多かろう)、これと、「そよ風の贈りもの」「すべてをあなたに」がヒットした時点でレンタルすることとした。この時点でホイットニーは日本ではまだまだ無名の存在だったわけで、私はいち早くこのスーパースターを発掘したとひそかに自慢に思っていた。

 それはともかく、従来、ボーカル/ポップスの枠で良作を多数発売してきたアリスタレーベルから出ているだけあって、B面の極めて平凡な2曲を除いては、無駄曲が一曲もなく素晴らしい出来である。特にバラード系の曲が素晴らしく、「オール・アット・ワンス」「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」「ホールド・ミー」「すべてをあなたに」というシングルカットされた4曲は、ホイットニーの伸びのある力強い歌声と美しいメロディラインのしっかりした楽曲がコラボレートし、総て忘れられない名曲である。

 ホイットニーはこの後の2作のアルバムをヒットはさせたものの、勢いで売れただけで音楽的に特に取り上げる点がないどころか、このデビュー作の2番煎じ的なメロディも随所に見られ、本作以外は遠い昔に消去済みである。

 結局彼女は単なる歌手であって、その場合フランク・シナトラやバーブラ・ストライザンドといった極めて突出したエンターテイメント性がないと長期間トップでいることは出来ない。残念ながら彼女はスーパースターという地位に振り回されスキャンダルまみれになっていつのまにか輝きを失ってしまい、2012年には溺死という残念な最後を迎える。本作では、教会でゴスペルを歌いながら培った声に、歌を愛し、丁寧に歌い上げる雰囲気を感じられ、そこには売れることを多分に望んだり、人気に媚びるような姿勢も感じられない。本作は彼女が最も輝いていた、または輝きを内蔵していた時期に、素晴らしい楽曲に恵まれて出来た傑作である。