「ホッター・ザン・ジュライ/スティーヴィー・ワンダー」 80年 評価 4.5
70年代初期から中期にかけての傑作群、「トーキング・ブック」「インナーヴィジョンズ」「ファースト・フィナーレ」「キー・オブ・ライフ」後、映画のサンドトラックとして製作された「シークレット・ライフ」(79)がやや興行的に失敗したあとのアルバムとなる。本作は、エルトン・ジョンが「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」「キャプテンファンタスティック・アンド・ブラウン・ダート・カウボーイ」という傑作の後に発表した「ロック・オブ・ザ・ウエスティーズ」と同じように、自分の好きな乗りの良い楽曲群を楽しんで録音したというような雰囲気が漂う。
全編を通じて、彼が盲目というのを忘れてしまうようなノリの良いグルーヴが気持ちよいし、変幻自在のボーカルも心地よい。1曲目から2曲目への変わり方のカッコよさから始まる旧A面が、全曲特にカッコいいアレンジも施され全く隙のない出来である。本作では大ヒットしたレゲエの「マスター・ブラスター」だけ知っていて、なんか単調な曲だと思っていたのだが、聴き込むにつれ細かく凝ったアレンジに気づかされ、アレンジャーとしての才能も並外れたものがあることにも唸らされる。
確かにアーティストとしてピークを迎えてしまった後の作品ではあると思うが、とても聴きやすく、その心地よさは彼の天才性のさらなる一面をも感じさせ、芸術性という点では傑作群には劣るかもしれないがとても良いアルバムと思う。