「キー・オブ・ライフ/スティーヴィー・ワンダー」 76年 評価 4.5


 私が洋楽を聴き始めた1983年以降発表された、スティーヴィー・ワンダーの最初のオリジナル・アルバムは85年の「イン・スクエア・サークル」。いい曲はあるのだが、ジャンルとしては確実に「ソウル」であり、あまり好きではなかったことからだいぶ昔に消してしまった。また、70年代以前にシングルヒットした曲もそう魅かれるものもなかったことから、スティーヴィーはこれまでほとんど聴くことのなかった巨星。しかし70年代の彼のアルバムは神がかり的という評価が多いことから、2017年の今、聴き始めてみたところである。本作は2枚組+4曲入りエクストラ盤1枚という大作である。

 何度も聴いてみて確実に言えることは、スティーヴィーは単曲で勝負するのではないアルバム・メイカーということだ。例えばエルトン・ジョンはロックというジャンルの中で信じられない振れ幅の曲作りをしてきたが(それはそれで凄いこと)、スティーヴィーはジャンルを超えた傍若無人ぶりの音作りだ。また、その中で実験的な楽器の使い方をしているし、それぞれが高いレベルで存在するという奇跡。また気づかされたのが優しいささやきも力強いシャウトも、エモーショナルに変幻自在に操る歌手としてのずば抜けた力量である。

 本作を聴くと、この後のマイケル・ジャクソンの爆発的人気は、確実にスティーヴィーが先鞭をつけていることがわかる。マイケルの歌からも感じられる心から沸き立つ言葉からなる愛に溢れた歌詞にも胸を打たれる(「イフ・イッツ・マジック」には鳥肌が立った)。「ソウル」というジャンルを超えた歌作り、愛、平和を訴える歌詞の素晴らしさ、二人の巨星に共通するこの2点に今更ながら気が付き、音楽の素晴らしさをしみじみと感じるこの幸せよ。

 ただ1点。同じフレーズを繰り返して6分を超える楽曲が17曲中7曲を占めることからややだれ気味に感じてしまうところがあり、それだけが評価5にいかない理由。