「ジェネシス/ジェネシス」 83年 評価4.5


 プログレッシヴ・ロックとしてキャリアをはじめたジェネシスは、ピーター・ガブリエルの脱退後、フィル・コリンズが主導権を握るようになるとロック/ポップス色が強くなってきた。そんなジェネシスのファミリーが大ブレイク(この後フィルは『ノー・ジャケット・リクワイアド』、マイク・ラザフォードは『マイク&ザ・メカニックス』で)するきっかけとなったのが本作。

 私が洋楽を聴き始めた83年、ちょうど「ザッツ・オール」がヒットしており、その独特の曲調、特徴的なボーカル、おじさん然としたメンバーのビデオ・クリップにかなり惹かれたものだ。ジェネシスは次作『インビジブル・タッチ』で頂点を極めるのだが、その兆候は本作でも十分感じられ、一聴すると地味な印象なのだが、よく聴くとどの曲もメロディがよく練られていて非常に高水準のアルバムであることがわかる。

 本作から全体的にかなりロック/ポップス色が濃くなったようで、プログレファンの評価はあまり高くないようだが、私にとってはそのプログレ具合がちょうどいいスパイスとして効いている。「ザッツ・オール」は名曲だし、「ママ」の弾け具合もジョン・レノンの「マザー」に匹敵するぐらいだ。

 しかし私はジェネシスのアルバムは本作と次の作品しか持っていない。この2作後の作品はあまりにジェネシスがフィルの私物化してしまい(その後フィルは脱退)、フィルの鬱状態に呼応するように非常に暗い内容になったし、本作以前はプログレ色が強すぎてアルバムとして聴くほどでもない(「フォロー・ユー・フォロー・ミー」など名曲もあるが)。しかし本作はフィルとマイクの作曲能力、トニー・バンクスのシンセによるプログレ具合が最もよくバランスしている名作である。