「キャプテン・アンド・ザ・キッド/エルトン・ジョン」 06年  評価4.5


 前々作の「ソングス・フロム・ザ・ウエストコースト」(2001年)(以下SFWC)が原点回帰と謳われながら、発売当時の印象がいまいちだったこと、前作の「ピーチツリー・ロード」(2004年)の評価がSFWC路線を継承しつつ、さらに世間一般の評価が低かったことから、それまでのオリジナルスタジオアルバムはすべて持っているというコアなエルトン・ファンでありながら、ついに前作から購入を止めたのだった。

 今作も、もちろん買うつもりはなかった。しかし、ひょんなことから2007年11月20日の武道館コンサートに行くことになり、また、エルトンファンのHPで今作の評価が高いことから購入することとした。

 題名からわかるとおり、エルトン絶頂期の記念碑的アルバムであり、ビルボード誌で史上初めて初登場No.1となった歴史的なアルバム「キャプテン・ファンタスティック・アンド・ザ・ブラウン・ダート・カウボーイ」(74年、以下CFABDC)の続編という位置づけになっている。芸術的にも、音楽的にも頂点を極めた名作の続編という仰々しい位置づけにしてしまった本作が、どのような内容なのか、期待と不安が半々のまま6年ぶりにエルトンの新作に耳を傾けた。

 何度も聴き、歌詞を熟読して感じたのは、いままでとは違ったエルトンの音楽に対する姿勢である。SFWCには正直、どこかで聴いたような無理やりなメロディーに歌詞を乗っけているイメージと、原点回帰という命題に振り回された感があった。しかし、本作はどうだ。30年来のコンビ、バーニー・トウピンの詩を最大限に生かしながら、それでいて内から沸々と沸いて出たようなメロディー。これをもたらしたのは、ラストの表題曲でのCFABDCのイントロをそのまま引用、「オールド’67」では「僕の歌は君の歌」のフレーズをそのまま借用という、これまでのエルトンでは考えられなかった、肩の力の抜け具合であろう。

 結果として、捨て曲というのは一曲もなく、力の抜けたような展開(重厚なバラード「ブリッジ」からカントリー調の「アイ・マスト・ハヴ・ロスト・イット・オン・ザ・ウインド」への転換)でも、アルバムの中でなくてはならないポジションを主張し、トータル性は極めて高い。もちろん、20年以上にわたってファンであるが故の感傷があるのは否めないだろうが、80年代の第二期黄金時代以降のアルバムの中で1,2を争う傑作であるといえる。

 もちろん今後、70年代の絶頂期のようなヒット曲の連発というのは望むべくもないが、60歳を迎えた今後、このような赤裸々な歌詞を力むことなく歌っていけるエルトンに、今までにない暖かな愛情を感じるとともに、次は何をするの?と大きな期待をしてしまう。

 11月20日、10年ぶりにエルトンのライヴを見た。元来早口なのにゆっくりと日本人にわかるように発音し、日本語で「どうもありがとう」を連発し、十数人という最前列のファンにサインを書いていた。こんなこと、私が観た過去3回において決してなかったことだ。ここでも明らかにエルトンの気持ちが変わっていることを感じ取ることが出来た。エルトンは60歳を迎えるところで明らかに変わった。ヒットチャートの推移・記録に縛られることなく、『原点回帰』とかの大仰な命題を自分に課すこともなく、自分の思うまま音楽を奏でている。

 1曲目の「僕の歌は君の歌」で涙が流れた。また、驚いたことに「君は僕の護りの天使」「驚きのお話」「歌うカウボーイ、ロイ・ロジャース」「Ticking」といった超マイナーな曲におけるさまざまなフレーズで、私自身歌うことが出来る。いかに若いころにエルトンの音楽に、バーニーの歌詞に夢中になっていたか、涙にかすむエルトンを観ながら、思い出した。

 私は今、この人類が誇る稀代のメロディメーカーと作詞家に出会え、四半世紀という間ファンでいたことを心から喜びたい。