「黄昏のレンガ路/エルトン・ジョン」 73年  評価5


 エルトン7作目のスタジオアルバムは2枚組17曲の大ボリューム。しかし総ての曲がすばらしく、70年代の名盤として必ず取り上げられる名作中の名作。収録曲すべてにそれぞれの絵があり、一曲一曲がステキな物語のよう。

 A面は、ライヴのオープニングとして定番の「葬送〜血まみれの恋はおしまい」で始まる。葬送を感じさせる壮大なシンセサイザーではじまるメドレーで、6分が経過した頃から聴かれるエルトンの歌声のなんとカッコいいことか!そして一般にはダイアナ妃の追悼のために歌詞を変えたものが有名な「風の中の火のように」は、マリリン・モンローに捧げた叙情的な歌詞が特に素晴らしいバラード。ライヴで際立つ「ベニーとジェッツ」から「僕の歌は君の歌」の次によくCMで使われる美しく、エルトンにしか書けないメロディの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」へ。その後の4曲も総てに独自の絵があり、まさに完璧。

 B面はA面よりもロック色が濃く、これまた歌詞が印象的でステキな雰囲気をかもし出すミディアムテンポのバラード「スウィート・ペインテッド・レディ」のあと、5曲連続で独特のエルトン節のロックンロールを聴かせ、彼のロックンローラー、エンターティナーとしての才能が認識できる。とくに「ツイストは踊れない」からエルトン最高のロックンロール・ナンバー「土曜の夜は僕の生きがい」の流れはため息ものだ。そして唐突に牧歌的な曲が2曲続いた後、オーソドックスなラヴソング「ハーモニー」でこの史上最高の2枚組アルバムは幕を閉じる。

 聴き込むうちに感じられるのは、プロデューサー、ガス・ダッジョンの貢献度。エルトン以外にこれといった作品を残せなかったが、エルトンの変幻自在の天才ぶりに呼応した、見事なプロデュースぶり。また、本作で3作目となるエルトン・ジョン・バンドの素晴らしい演奏も相まって、それぞればらばらの絵を持っていながらアルバムとしては統一感があるとともにエルトンのメロディメーカー(どの曲もエルトンにしか書けないメロディライン)、ロックンローラー、ライヴ・パフォーマーとしての魅力が余すことなく感じられる大傑作。「エルトン・ジョン3」が芸術的名盤とすれば、本作はエンターテイメントの名盤と言える。間違いなく、70年代どころかロック史を代表する名盤である。