「エルトン・ジョン3/エルトン・ジョン」 70年 評価5
エルトン3枚目のアルバムは、前作のクラシカルな吟遊詩人という趣からがらっと変わり、アメリカ南部の土臭ささを思いっきり感じさせる硬質のロックアルバムとなった。確かに前作で「僕の歌は君の歌(ユア・ソング)」という大ヒットは生まれたものの、とてもとても地位を確立したとはいえない中でのこの変貌振りだ。それでいてこの完成度の高さはまさに天才という以外ない。
エルトンの最高傑作というと一般には『黄昏のレンガ路』で、エルトンとバーニーの深い関係を知ったファンには『キャプテン・ファンタスティック』であり、さらに音楽を聞き込む人は本作というのが大体の傾向。私自身、本作は聴き始めの中学、高校くらいはそんなにいいとは思えなかった。本作の良さがわかってきたのは社会人になってからで、聴きこめばそれだけ良さが滲み出てくる。
バーニー・トウピンの歌詞とエルトンのメロディが完璧にコラボレートしたのが本作。とにかく全くけちのつけようがない。娼婦の約束の言葉を信じて通りに来たものの、一人佇む青年の風景と心情を歌った「遅れないでいらっしゃい」、南北戦争で父を殺され、その敵を討つため戦場に向かう青年の決意を歌った「父の銃」、農場の風景を愛情込めて表現した「故郷は心の慰め」、年老いていく寂しさを切々と老兵に代弁させた「老兵の話」といった名曲群は、エルトンのメロディ、歌唱、バーニーの情緒あふれる歌詞、そしてガス・ダッジョンの雰囲気あふれるプロデュースにより、それぞれが1本の映画のように歌の風景までを感じさせ、まさに技術的名品とでもいうような完璧な仕上がりである。
しみじみと、ウイスキーのロックでも傾けながらじっくりと聴きたい名作で、これから年をとるにつれ、さらに心にしみる作品となっていくだろう。しかし、本作発表時エルトンは若干23歳。もう一度言う、エルトンは紛れもない天才である。