「ジギー・スターダスト/デヴィッド・ボウイ」 72年 評価5


 私が洋楽を聴き始めた1980年代中盤にデヴィッド・ボウイが放ったヒット曲は「レッツ・ダンス」や「モダン・ラブ」で、特に特徴的でも秀でていたわけでもなかった。また、映画「戦場のメリークリスマス」で俳優としても活躍し、何となく、昔有名だったミュージシャンが、売れ線の曲を出し映画という媒体も利用し、昔の名前で出ています、的な印象だった。その後、ヒット曲も出なかったのでなおさらだ。なので私にとっては、今日までほとんど聴かないアーティストだった。しかし、ローリングストーン誌が選ぶベストアルバム500の中に6作のアルバムが挙げられているため、その中で最上位(35位)のボウイにとって5作目にあたる本作を聴いてみたわけである。

 宇宙から、残り寿命5年の地球上に降り立ち、ロックで人類を救おうとするロックスター、ジギー・スターダストの栄枯盛衰を1枚のアルバム中に表現した、奇跡的な完成度のコンセプトアルバム。本作中のある1曲を取り上げたところで永遠の名曲というものはないものの、コンセプトを完璧に表現するアレンジ、バックバンド、ザ・スパイダーズ・フロム・マーズの玄人的で繊細な演奏、ボウイのボーカルなどそれぞれが欠くことのできないピースとなり、全体の流れを構成している。正直アルバムとしてのまとまりはビートルズの「サージェント・ペパーズ〜」さえも凌ぐ、最高のコンセプトアルバムである。

 これは持っている価値のあるアルバムだと思うし、ボウイは70年代に毎回違う内容の名盤を製作していたらしく、これから初めて彼の軌跡をたどることができるという新しい楽しみが増えたことが純粋にうれしい。