「ハートビート・シティ/カーズ」 84年 評価5


 常に時代を先取りしてきたカーズの5作目にして彼らの最大のヒット作。「ユー・マイト・シンク」が第1回MTVアワードを受賞したようにビデオ・クリップの面でも時代を先取りしていた。

 ほとんど全ての曲を作曲していたのはバンドのフロントマンであるリック・オケイセクで、彼の抜群のポップセンスが全編から窺い知れる傑作。曲調が特にバラエティに富んでいるわけではないが、リックの癖のある声と歌いまわしは特徴的で、この声だからこそ単調にならなかったということもできる。もう一人のボーカリスト、ベンジャミン・オールが全ての曲を歌っていたら、カーズらしさというのがなく、他のポップス・グループの中に埋没する可能性もあっただろう。

 シンセサイザーとプログラミングされた音(このアルバムを製作する上で、バンドのメンバー全員が一堂に会したことはなかった)の構成は無機質で、重厚さとは無縁であり、評価5をつけるべきか迷ったが、それを条件にしては評価5はほんの数作になってしまうし、本作はそういう音だとしても隙のない完璧な仕上がりで、間違いなく80年代ポップスの傑作であるので5点を進呈する。

 しかし、本作を聴くのは10年ぶりくらいか。一瞬名曲「ドライヴ」を歌っていたのは誰だったっけ?と忘れかけたが、「そうそうベンジャミン・オールだ」とすぐに頭のどこか