「マジック/ブルース・スプリングスティーン」 07年 評価4.5
ジャケットのボスの写真。白髪が混じり、皺も増え、年とったなぁという印象。いろいろな媒体での、「今作はあの『ボーン・イン・ザ・USA』を髣髴とさせるロックンロール・アルバム」という評論に惹かれ、スタジオ・アルバムとしては約20年ぶりに新作を聴いてみようと思ったのだが、まずジャケットからは長い年月を感じざるを得ない。
スタジオ・アルバムとしては05年の『デヴィルズ・アンド・ダスト』以来の14作目(多分)。『ボーン〜』で一緒だったEストリート・バンドと『ライジング』以来5年ぶりに組んだということだが、私はかなり内向的になっていった92年9作目の『ヒューマン・タッチ』以降、聴くのを止めていた。日本でいう演歌のような、アメリカ人でないとその深層まで理解できないアメリカン・ロックについていけなかったからだ。
しかし、のっけからの「レディオ・ノーウェア」のグルービングはどうだ!この勢い、声の張り。58歳という年齢に外見上は違和感ないボスのこの若々しいロックンロールには度肝を抜かされる。歌詞的にはさすがに20年以上という年輪を重ねた分、宗教的で、抽象的に人生を語る面が多くなったとは言え、音は紛れもないロックンロールだ。20年という歳月を飛び越えてなお、ここまで徹したロックを聴けるとは思わなかった。
確かにメロディ的には新しいものはないかもしれない。しかし、ロックというのは歌詞と一対になってこそ息吹を与えられる。その意味で、本作は紛れもなくロックしているし、『ボーン〜』に比べ全編を聴き終わったあとの“重さ”というものを感じられる。
しかし、58にして「ガールズ・イン・ゼア・サマー・クローズ」のような歌詞を書けるか?今私は、ステージの上に観客の女の子を引っ張り上げ踊っていた「ダンシング・イン・ザ・ダーク」、雨に濡れる車の中で歌った「アイム・オン・ファイア」、Eストリート・バンドの面々と楽しそうに演奏した「グローリィ・デイズ」と同じ時代に帰って、本作のビデオクリップを見てみたい。本作はあの頃のロックンロールを懐かしく思い出させると同時に今の時代の重さをも感じさせる、特異で貴重なロックの名盤である。