「ペット・サウンズ/ビーチボーイズ」 66年 評価 4


 ビーチボーイズの、スタジオアルバムとしては7枚目で、中心人物だったブライアン・ウィルソンが実質的に最後に参加したアルバム。ブライアンはビートルズの「ラバー・ソウル」に影響されて作ったと公言しており、これまでの海辺、サーフィン、ビキニの女の子といったモチーフの楽曲とは大きく異なる作風で、レコード会社の戦略はお構いなしにビーチボーイズ名義でありながら、ブライアンが一人で作った、ロックの名盤として必ず上位に来る作品である。

 一聴したところ、「ラバー・ソウル」でビートルズが披露し始めた卓越したジョン、ポール、ジョージの天才的なメロディメーカーの才能と比較すると、メロディをこねくり回して苦労して苦労して曲を作ったという印象。確かに音のつくりは凝っていて、特にミュージシャンであれば唸るような展開もあるようだが、私の琴線は弾かなかった。

 ところが、聴き込んでいくうちにこの第一印象が変わっていく。練られたメロディは痛々しいまでに美しく、ポップ・ロックという枠は出ない中で当時としては実験的な音作りをしていながら全体として物寂し気な雰囲気が包み、アルバムとしての完成度は非常に高い。かなり昔の作品ということを差し引いても同時期発表の「ラバー・ソウル」と比較して何となく音がこもっている感じと、楽器もボーカルも素人っぽい感じ(これがビーチボーイズの持ち味かもしれないが)がどうも気にかかる面はあるが、これは確かに名盤といわれてしかるべき作品である。

 なお、88年のCD化にあたり山下達郎がライナー・ノーツとしては異様な長文を寄稿しており、確かに彼の音楽(メロディ、音作り)のルーツがこの作品にあるということが良くわかる。