「生きものの記録」 55年日  評価3.5(5点満点) メジャー度1

監督:黒澤明
出演:三船敏郎、志村喬、千秋実他

 自分一代で町工場を作り上げた老人中島は、いつ原爆や水爆の恐怖にさらされるかわからないとの理由から、そこで働く息子達家族、妾や妾の子供達とともにブラジルに移り住む計画を立てる。しかし当然の如く周りは反対し、裁判で中島に資産を使えなくする措置をとる。資産に手をつけられない中島は、なんとしてもブラジルに移り住もうとするあまり自分の築き上げた町工場に自ら火を放つ。

 「七人の侍」の翌年の製作で、黒澤の脂が乗り切っている時代の作品。前年にアメリカの水爆実験で第五福竜丸の乗組員が被爆し、死亡するという事件があったことからその時代に即応した題材になっている。戦後たった10年、水爆実験と、当時にしてみれば中島が持った恐怖はふと我に帰れば誰でも持っていた感情なのではないか。しかし、いかんせん現代の我々は水爆がどこかに落とされようものなら地球が破滅すること、どこにも逃げ場はないことを十分承知であり、話の根底にあるものに共感できないというのが正直なところ。しかし黒澤ファミリーの役者達の達者なこと、演出の歯切れのよさ、カット割の斬新さなど、映画としての醍醐味には事欠かないのは言うべくもない。