「乱れる」 64年日  評価4(5点満点) メジャー度1

監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子、加山雄三、草笛光子他

 第二次世界大戦中に結婚したれいこは結婚の半年後に夫を戦争で亡くして以来18年間、嫁ぎ先の酒屋を一人で立て直し、今は年老いた義母と、ぷーたろうの義弟の面倒を見ている。しかし、スーパーマーケットの進出で個人商店の経営が厳しくなっていく時代。れいこの酒屋も例外ではなく、建て替えてスーパーにするという話も出始める。そんな中、義弟から真剣な愛の告白をうけたれいこはスーパーが出来ると、自分が邪魔な存在になるということも考え合わせ、故郷に帰ることを決める。

 故郷へ帰るれいこを送るため、義弟も一緒に電車に乗り込み、二人は途中の温泉で下車する。しかしどうしても男と女の関係になれないれいこをあきらめ、義弟は実家に帰ろうとするが、温泉街の崖から落ちてしまう。

 なんといっても時代を鮮明に切り取ったセリフ群が素晴らしい。戦争で亡くした夫の変わりに11歳も年下の義弟と付き合うことの当時としての世評の厳しさが、実際付き合ったわけではないのに痛いほどわかる。また、高峰秀子も同じ成瀬との作品「浮雲」で見せた美しさとは違い中年女性の押さえた色気を見事に表現している。

 ラストは担架で運ばれる義弟を追うれいこのアップで突然終わり、あっけに取られる(そのあとどうなるのかとても興味を残す)が、18年間、なくなった夫と嫁ぎ先のためにささげた女の表情が、一瞬にして恋をしている女の顔に変わっている画だけで今後のすべてを物語ってしまう。成瀬&高峰のコンビによる「浮雲」に並ぶ傑作である。