「国宝」2025年日 評価4.2
監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、寺島しのぶ、高畑充希、森七菜他
2025年6月観賞
立花喜久雄はやくざの組長の息子として生まれたが歌舞伎に魅せられ、組の新年会にてその芸を披露したのだが、その場で敵対組織の出入りにより父を殺害される。その新年会に出席していた歌舞伎界の重鎮、花井半二郎は歌舞伎の才能を感じた喜久雄をかばい、自分の家に住まわせる。やがて喜久雄は半二郎の息子を凌ぐ歌舞伎の才能を開花させていく。
3時間弱という力作で、歌舞伎舞台の魅力も存分に表現されていて、まさに力作という作品。特にやくざ組長の息子、喜久雄が「半二郎」を襲名するまでは息つく間もないほどの濃密さ。また、作中にちりばめられた伏線(血の関係、娘への言葉など)もしっかりと回収されていく構成も見事。
一方で、先代半二郎が亡くなった後からの挫折と流浪、再度の表舞台での活躍が描かれる後半が弱いとは感じてしまう。原作(未読)は上下巻(青春篇と花道篇)があり、上巻部分をしっかり描いたものと考えられるが、ピックアップしたものの尻切れや展開が不自然になっているエピソード(若い時の恋人や娘を生んだ芸者の末路、マネージャーのようになるある会社の社長の部下の心変わりなど)が多々感じられ、もう少し登場人物を絞るか、前後半の2作にしたほうが良かったのではないかと思う。逆に言うと、小説はもっと読みごたえがあるのかもしれない。
前半部分でも、やくざ組長の息子であり、父親殺害の敵討ちで敵対組織に殴り込んだ喜久雄が1年後に歌舞伎の世界に足を踏み入れ、その後、背中のみみずくの大きな刺青を公に暴露されても歌舞伎を続けられる(敵対組長の一人息子がやくざの報復を受けない)という構成も、喜久雄の成功物語を追うがあまりに軽率な感を受ける。それでも前半は観応え十分なのだが、いまいち後半の印象が薄いのは、拙速な展開と、前半ではしっかり描かれていた名優渡辺謙と寺島しのぶ演じる歌舞伎界の赤裸々な裏側といった、物語に深みを与える演技者からなるサイドストーリーが希薄であるためと思われる。
そういう詰めの甘さは感じざるを得ないのだが、若い役者たち、特に吉沢亮は魅力的で、生粋の歌舞伎フリークにとっては出演者が演じた歌舞伎は子供だましなのかもしれないが、歌舞伎の美しさを一般に知らしめ、興味を持たせるほどの魅力は十二分に感じられる。また、穿った見方かもしれないが、本作は単純な才能あるものの成功物語にしていない。近年、歌舞伎界のスキャンダルが多く発生していて、その遠因として、血筋を最優先に伝統を守ってきたことにあるのではないかという歌舞伎界に対するアンチテーゼも感じる。
ともあれ、日本の興行成績のトップは子供向けアニメ映画やディズニー、アベンジャーズ系でほぼ占められる昨今、吉沢亮、横浜流星という人気イケメン俳優を使ってはいるとは言え芸術作品のジャンルになる本作が公開3週目になって首位を奪取したという快挙は間違いなく称賛に値するもので、私にとってはこれがとても嬉しい驚きだった。