「東京物語」1953年日 評価4.2
監督:小津安二郎
出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、山村聡、杉村春子、香川京子他
1990年、2025年5月観賞
広島尾道に住む老齢の平山夫妻(周吉ととみ)は久しぶりに東京に住む長男家族や長女家族、戦争で亡くなった次男の嫁に逢いに東京に出向く。しかし、医院を営む長男は急患で相手ができず、美容院経営の長女も忙しく、次男の嫁が同行する東京はとバスツアーに参加したり、熱海の温泉旅館に追っ払われたりとゆっくりできずに数日で尾道に戻ることになる。しかし旅の疲れからか、ほどなくとみは病気に倒れる。
私の親類はほぼ東京及び近辺の県に住んでおり、また、現代社会において最も金と時間があって活動的なのは紛れもなく高齢者なので、本作で描かれる平山老夫妻の慎まやかで遠慮がちな行動は今回の鑑賞では正直言うとじれったくなってしまうのだが、生きてきた時代背景からはその行動と思考はわからぬではない。
前半は、そのような35年前の鑑賞時には感じなかった感情があっていまいち共感できない部分が多いのだが、中盤からはその違和感も和らいでいき、いつもの小津節を堪能できる。5人の子供たちを想う、内に秘めた優しい想いは、今を懸命に生きる中で子供たちはどうしても忘れがちになってしまう。その事実にさみしさを感じながらも人生を仕舞いにかかる老夫婦の覚悟。そんな心の情景が胸に痛く刺さってくる。
特に鮮烈な印象を残すのが、戦争未亡人の次男の嫁を演じた原節子。極めて優しい嫁という人物像でありながら、実は本人が「ずるい」と自己表現するような側面が間違いなくあると思わせる演出面、演技面での描き出し方が凄いと思う。
長男を演じた山村聡のたった6つ上で、とても撮影時40代とは思えない笠智衆の究極の老け役、空気を読まないおばさん役をやらせたら相変わらず天下一品の杉村春子、上述の原節子と、小津作品の中でも俳優の魅力がより発散されている作品と感じる。
一方で平山老夫婦の行動は、現代人には理解しがたいものだと思うし、芸術的価値を置いておいて単純な内容としては、残念ながら時代と共に共感を得られなくなる作品だと感じてしまう。