「異人たちとの夏」1988年日 評価4.7
監督:大林宣彦
出演:風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子、永島敏行他
1991年、1993年、2025年1月観賞
40歳になるシナリオライター原田は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある晩、同じマンションに住むケイという女性が一緒に飲もうと訪ねてくるが、原田は冷たく追い返す。数日後、原田は幼い頃に住んでいた浅草で、彼が12歳のときに交通事故死した両親に出会う。
話の展開が速く、すぐに浅草のシーンが出てくるのだが、浅草は若い頃によく行き、お得意のデートコースでもあったので、当時の浅草の風景が映し出されるたびにノスタルジーも感じ、一気に物語の虜になる。当時絶大な人気を博していた風間杜夫の演技も素晴らしいし、元々江戸っ子の鶴太郎の堂に入った江戸弁や佇まいもいうことなし。特徴ある美人の、恋人役名取裕子も、母親役秋吉久美子もとても魅力的で、キャストの演技・魅力がビッタリこの作品にマッチしていると思う。
仕事は順調でも私生活は寂しい中年男が、12歳の時に亡くした両親と会うことで心の隙間を埋めつつ自分の人生を振り返って前を向く心持に変化していく流れがほんわかと温かくて切ない。両親とのシーンはどれもすごくいいんだけど、特に最後の浅草の今半別館での、消えゆくことを定めと覚悟を決めた鶴太郎と秋吉の、息子への愛情と奇跡への感謝、再度で永遠の別れへの惜念など、ごちゃ混ぜになった感情がそのまま会話になっていて、その時の、風間杜夫の哀しみと感謝に震える表情ともども、思い返すだけでも泣けてくる最高の名シーン。
私の解釈では、原田がどんどん生気を失っていくのは、彼に冷たくあしらわれたことが引き金になって自殺したケイの怨念によるもので、実態は亡霊であるケイと体を重ねることが原因と考える。となると、死んだ両親と会えるようになったのはなぜなのか?お互いに亡霊である両親とケイとは利害が相反するので同時期の蘇りに相関関係はなさそうだし、あっちの世界での取引の結果??その点が映画では描かれないので、そこにモヤモヤが残ってしまうのがちょっとすっきりしないけど、去年日本公開された英国製作の「異人たち」ではほとんど感じることができなかった両親側からの愛情と慕情の深さを、本作では存分に心で感じることができ、やっぱり山田太一原作の本作は日本人にこそ描けるものなんだよなぁと思う。