「セント・オブ・ウーマン」1987年米 評価3.8
監督:マーティン・ブレスト
出演:アル・パチーノ、クリス・オドネル、 フィリップ・シーモア・ホフマン他
1993年、2025年1月観賞
名門校の生徒チャーリーは家が貧しく奨学金で高校に通っているため、感謝祭の休暇期間に他の金持ち仲間とはつるめず、バイト料の高さから、盲目の退役軍人で偏屈な老人フランクの面倒を数日間みるバイトを始める。
とにかくアル・パチーノの演技が凄い。タンゴを無難に踊ったり、フェラーリを猛スピードで運転したりは少々やりすぎだが、盲目の老人を全く違和感なく演じているだけではなく、退役軍人フランクの頑固で偏屈な心が、純粋で正直な青年と一緒にいることで少しづつ氷解していく様の表現も完璧。
フランク中佐と高校生チャーリーのニューヨーク旅行におけるフランクの頑固な心の氷解とチャーリーの学校での悩みへの解決が並行しての感動的な結末まで持っていくストーリーも構成的に見事。しかし、初見時の評価4.5からは大幅にダウンしてしまう。
私の祖父はチャキチャキの江戸っ子で口が悪いのだがとても楽しく、人を惹きつける魅力に長けた人だった。なので、初見時にはフランク中佐のような人も容易に受け入れられたのだが、それから30年以上が経過し、ハラスメントに対する世間の目は格段に(正当に)厳しくなった世情の中、また、私も社会的な地位が変わって、心の根底からハラスメントへの注意力は高まっている中でフランク中佐の行為はやはり是として受け入れられない。大声での恫喝、脅しによって無理やりチャーリーをニューヨークに連れていくし、兄の家族へのセクハラ、パラハラ発言はさすがに許しがたい。女性達への発言や、相手のつけている香水を当てることさえ現代ではタブーだ。特に前半のフランクからチャーリーへの完全なるパワハラは嫌な気分になるし、時代の違いによってかなり評価を落としてしまう作品だと思われる。
また、チャーリーを巡る課題に関しては、そもそも名門校の校長が、自分の高級車へのいたずらに対して実犯人の探索・追及を十分にせず(少なくとも映画の中では全く描かれない)に、彼らを目撃した人が正直に白状しないからと目撃者の退学を委員会に諮るという展開は、そもそもからおかしい。
なお、改めて感じるのは、米国内における退役軍人に対する尊敬の念(特にフランクは中佐まで昇級しているので)。日本では軍人に対するこのような感情は希薄なので、日本人にとっては都合の良い展開と感じてしまうところがままあるのはお国柄の違いとして致し方ないだろう。