「息子」1991年日 評価4.0


監督:山田洋次
出演:三國連太郎、永瀬正敏、和久井映見、田中隆三、原田美枝子、浅田美代子他

1992年、2024年12月観賞

 バブル景気に沸く東京の居酒屋でバイトしている哲夫は早朝に、岩手の奥地に住む年老いた父親から、母の一周忌への呼び出しを受けるが、実家では定職につかないことを父から窘められる。一方で、兄忠司ともども、反抗しながらも年老いていく父の今後の行く末を案ずる。

 山田洋次監督作品は寅さんシリーズ以外、ほとんど観ていない。それは寅さんシリーズ後期の作品が、シリーズとしての面白さを度外視すれば、マンネリで時代にそぐわないセリフのやり取りや家族観に違和感を持つことが多かったのと、寅さんシリーズ以外の新作の予告編が、毎度お決まりの出演者であるとともに、感動させようという演出過多を予感させていたことによる。

 もちろん例外はあって、「たそがれ清兵衛」は大好きだし、1970年代以前であれば「馬鹿が戦車でやってくる」「幸福の黄色いハンカチ」などは個性のある良作で、本作もその系譜に連なる作品と言えるだろう。

 32年前の鑑賞時は本作の永瀬&和久井とほぼ同じ歳だったため、彼らの純粋な恋愛に胸を打たれた印象が強く残っていたのだが、再鑑賞では、バブル期に東京でサラリーマンとして働き、千葉にマンションを買った長男忠司の苦悩も同程度描かれており、題名「息子」の通り、どんなに不便な田舎に住もうが、いつも息子たちのことが気になって、親として愛しみ、決して迷惑はかけまいという初老の男の心の整理に焦点が当てられており、今やその父親の歳に圧倒的に近づいた自分はその視点からの印象が強く残ることになる。非常に厳しい現実的な観点で描かれていて、今一つ物語の着地点がぼんやりしているものの、それはそれで、それぞれの家族に共通の着地点はないということなのだろうと解釈できる。

 名優三國連太郎の、岩手の片田舎のあか抜けない男然(父親とは言え、もしうちで一緒に暮らすのだとしたら、正直、厄介だと思わせるほど)とした演技が素晴らしく、永瀬、田中邦衛などの名優と、いかりや長介、レオナルド熊などの個性派の俳優陣ががっちり演技面を固め、日本で数々の賞レースを総なめしたのも頷ける良作。