「2度目のはなればなれ」2023年米・英 評価4.3
監督:オリバー・パーカー
出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ジョン・スタンディング他
2024年10月観賞
2014年夏。イギリスの老人ホームに暮らす、お互いに90歳になろうという老夫婦バーナードとレネ。元英国海軍に属していたバーナードはレネの勧めもあって、一人こっそりとホームから抜け出し、フランスで開催されるノルマンディ上陸70周年記念式典に旅立つ。しかし、その行動はSNSによって大ニュースとなった。
実話をベースにした内容で、本作公開時90歳のマイケル・ケインは本作での引退を表明。相手役のブレンダ・ジャクソンは本作出演後ほどなく亡くなっている。
まず触れたいのはこの名優二人の素晴らしい含蓄ある演技。ケインは1960年代後半から名バイプレーヤーとして様々な映画に出演。お洒落でユーモアも感じさせる英国人然としていながら時として威厳を感じさせる人物も演じ、文芸作品から2000年以降70歳を超えてからはバットマン・シリーズやクリストファー・ノーマン監督作品にも積極的に出演。強く心惹かれるという俳優ではないが、いつもどこかに彼がいたという、記憶に刷り込まれる変幻自在の大俳優。ジャクソンは1990年代から政界に進出したこともあって、全く私は知らない、観たことがない俳優だったのだが、1969,1973年にアカデミー主演女優賞を受賞した名優。このアラナイ(お互いに出演時は80代後半)の二人の演じる夫婦のやりとりを観ているだけで涙腺が刺激されてしまう。
ストーリーの大枠は実話をベースにしているのだろうが、その内実の部分はかなり脚色されていると感じ、特に妻のラストまでの発言は綺麗すぎるかなとも思う。また、夫婦が結婚するときの20歳頃の時代と現代(2014年)しか映画では描かれず、その間の描写は皆無であるため、バーナードがなぜ70周年になるまでフランスに赴かなかったのかは不自然に感じるし、「結婚してから1秒も時間を無駄にしていない」という妻の発言もちょっと実感できない。
このあたりは97分という上映時間からもう少し増やしてでも描かれるべきだったのでは?とは思うが、それでも主役二人の過去の喜怒哀楽を噛みしめた表情に、なんとなく納得させてしまう力はある。
多分本作の良さは、50歳代以上、仲良く夫婦生活を続けてきた人々にこそ感じられると思う。その意味では私は素直に感動できたし、老齢になる今後の人生に温かい温もりを期待させる内容。マイケル・ケインは良い引退作を選んだな、と思う。