「侍タイムスリッパー」2024年日 評価3.9


監督:安田淳一
出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴他

2024年9月観賞

 会津藩士・高坂は長州藩士を討つため京都にいたが、戦いの最中落雷により現代(2007年頃)へタイムスリップし、京都の時代劇撮影所で目を覚ます。元の時代に戻れない高坂は寺の住職夫妻に助けられ、寺に居候することとなり、ある日、テレビで放送された時代劇や撮影現場を見た高坂は、斬られ役こそ現代において自分に出来る仕事と思いたつ。

 タイムスリップで過去・未来に行った際や、同時代でも全くの異文化の地に行った際のカルチャー・ギャップを面白おかしく描く映画はごろごろあり、本作も前半は全くその範疇に入り、使い古された笑いだし、幕末の時代からタイムスリップしてきた主人公・高坂が案外すんなりと現代の文化に慣れることもあって、正直、前半は何の変哲もない映画。ところが、高坂の敵である長州藩の剣士・風見が高坂の30年前に同じ場所にタイムスリップしたことがわかってから、話は面白くなってくる。

 結局本作の成功は単純なタイムスリップものにせずに、その背景に長州藩と会津藩という幕末に敵対していた藩の二人が同じ世界に住み、彼らだけがお互いを認識しているという設定を上手く生かしたことにあろう。ここに気を付けて映画を観ていると、一筋縄ではない侍の生き様や人情物語が浮かび上がる。

 インディーズ作品でありながら全国ロードショーに展開された点で「カメラを止めるな」と似た経歴を持った本作だが、「カメ止」より魅力的なのは、主役二人が芸達者で殺陣も本格的でクライマックスに向けて緊迫感ある展開になる点と、ヒロインを演じた沙倉ゆうのがなかなか可愛らしい(しかも、45歳とは驚き!)からだと思う。主役を演じた山口馬木也、冨家ノリマサは二人ともTVドラマや舞台への出演が豊富で、腕は確かな役者さん。その他にも役者は下積みを続けてきた職業人を使っているため、映画全体としてはもちろんインディーズ風ではあるがしっかりした造りと感じさせる。また、沙倉ゆうのは劇中と同様、本作品でも助監督など様々なお手伝いをしているところが微笑ましい。