「秋日和」1960年日 評価4.2


監督:小津安二郎
出演:原節子、司葉子、佐分利信、岡田茉莉子、中村伸郎、北竜二、佐田啓二他

1990年、2024年9月観賞

 亡き友三輪の七回忌に集まった間宮、田口、平山の3人の話は、三輪の娘である24歳になるアヤ子の結婚に至る。間宮は会社の部下との縁談を薦めるも、アヤ子は母秋子を一人残して結婚することをためらう。男たちは、アヤ子を嫁ぐ気にさせるためにはまず母親を再婚させることが必要だと考え、妻をなくしていた平山と秋子を結びつけようとする。

 ストーリーは、1949年作品「晩春」における父・笠智衆、娘・原節子の関係を、母・原節子、娘・司葉子に置き換えただけで、その構図に新鮮味はない。また、前年の「お早う」と被る俳優が大挙して出演(主要3主婦仲間、おなら兄弟など)しているし、母親役原節子の住む団地の一室も「お早う」で佐田啓二親子が住んでいるのと一緒で、どうしても既視感があるが、それはまぁ小津作品群に対して言ってもしょうがないこと。

 冒頭、女性は関係者の紹介による見合いによって結婚するもの、という結婚観から始まるため、またしても、古いと感じざるを得ない内容かな、と観続けることに危機感を感じてしまった。ちなみに、「晩春」も本作も30年以上前に観た時の評価は頗る高いが、当時は親世代が見合いで結婚するという実例を多く見聞きしていたので、そういうものかと違和感がなかったが、その後生きていく中で時代が変わってきたことを自然と受け止めてきていて、逆に歳をとった今観る方が、その結婚観に違和感を覚える。

 ところがその後、話の展開の中心になる、初老で地位もある3人の男たちのやり取りが極めて面白い。これは逆に、彼らと同年代になったからこその価値観から出るユーモアと侘び寂びの気持ちが良くわかるからであろう。とにかくこの3人がすごく面白くて上映中笑いが止まらず、小津作品中、最もユーモアのある作品だと思う。

 また、「晩春」の父娘より、母娘の関係での親子の愛情の方がどうしても健全で受け入れやすいので彼女らの心の動きがしっかりと想像できて、その観点でも心に訴えるものは強い。

 そんな中で異彩を放っているのが、現代的で気の強い女性を演じた岡田茉莉子。唯一、本作における鋭いアクセントになっていて、彼女の存在と、若い男女のピクニックシーンを入れたことなどから、あまり古い内容という感じは受けない。またどうしても見惚れてしまうのが原節子の佇まいや歩き方、細かい所作の優雅さ。これは元々の生き方がこうでないと醸し出せないものだと思う度、やはり稀代の大女優だったのだと再認識。