「酔いどれ天使」1948年日 評価4.3
監督:黒澤明
出演:志村喬、三船敏郎、山本礼三郎、木暮実千代、中北千枝子、千石規子、久我美子他
1990年、2024年8月観賞
戦後間もない頃、泥沼の近くに住む酔いどれ医師の真田はある夜、左手に銃弾を受けたチンピラ松永を手当てするが、咳をする松永を診て、結核を患っていることを伝える。しかし松永はそれに構わず酒浸りの日々を過ごし、ついに賭博場で喀血する。
とにかくセリフの3~4割が聞き取れない。最近顕著に50年代以前に製作された日本映画のセリフが聞き取りづらくなっており、これは単に昔の映画の音声や活舌が悪いだけではないようだ(30年以上前の鑑賞時には、それほどは感じなかったのだから)。もうこれは自身の老化により、ある周波数の音が聞こえなくなっていることが要因(実際、蚊の羽音は聞こえなくなってるし…)と認めざるを得なくて、字幕付きのものを観ないとダメなんだなぁと観念する。
しかし、そんな状況での鑑賞でも本作は頗る面白い。まず、本格的な主役級デビューとなり、黒澤作品初出演となった世界の三船が鮮烈。当時の俳優と比べ抜きんでた存在感を感じるのだが、それだけでなく強さの中の弱さも垣間見せて、その後の活躍を十分予感させるインパクト。そして志村喬は1939年の「鴛鴦歌合戦」で披露していた美声と歌の上手さを本作もちょいちょい見せつつ、意外に体の動きも素早く、この後の作品で見せるような重厚な感じのイメージとは異なる姿が魅力的。
そんな二人を中心に、戦後の猥雑な世界で生きる人間たちの狡さ、汚さを描き出していくのだが、一方で飲んだくれだが正義感ある医師である真田の考えや行動の歯切れが良く、そして唯一本作の清純さを独り占めする久我美子演じる女学生のストーリーがとても清々しく印象に残る。
黒澤映画の中では芸術性はあまり感じられず、笠置シズ子の「ジャングル・ブギー」のフューチャーも特徴的で、勢いのあるストーリーと俳優の魅力で突っ走ることが前面に出た珍しい作品だと思う。