「蜘蛛女のキス」1985年ブラジル・米 評価3.5


監督:エクトール・バベンコ
出演:ウィリアム・ハート、ラウル・ジュリア、ソニア・ブラガ他

1988年、2024年8月観賞

 舞台はチリの刑務所。未成年者に対する性的な行為により服役中のゲイのモリーナは、社会主義運動の政治犯として逮捕されたヴァレンティンと同室になる。二人は互いに心を通わせていくが、実はモリーナは、ヴァレンティンのいたゲリラ組織に関する情報を聞き出すよう刑務所長から命じられていた。

 密室での獄中の二人のやり取りしかない序盤1/3は、正直、その状況やストーリー的にもやや退屈であることは否めない。また、時折挿入される、モリーナがかつて観た映画のシーンがいまいち素敵ではない(個人的嗜好からソニア・ブラガに魅力を感じない)のだが、とにかく女装ゲイ、モリーナを演じるウィリアム・ハートの演技が魅力的で凄くて、なんとか乗り越えられる。そして、モリーナがあるミッションをもって獄中生活を送っていることがわかってからストーリーが展開し、密室でのやり取りにも細かい意味があることが判明してきて俄然面白くなってくる。

 一方で、ラストの15分くらいの展開は結構雑であっけなく、見どころは獄中劇の後半部分のみで、その時間帯のウィリアム・ハートとラウル・ジュリアの演技が本作の最大の魅力であろうし、その点は間違いなく観応えがあるのだが、それだけでは良い映画だとは言えないなぁ。

 ウィリアム・ハートはこの後本作を含め3年連続アカデミー主演男優賞にノミネート(本作で受賞)され、一時期演技派男優としてブレイクしたのだが、女性遍歴が派手だったこともあってか、いまいち作品に恵まれなかったのは残念な記憶として残っている。