「魔女の宅急便」1989年日 評価4.4
監督:宮崎駿
出演:アニメ
1989年、1990年、2024年8月観賞
ほうきに乗って飛ぶ魔術しか覚えなかった魔女の血を引くキキ。魔女には13歳の時に1年間、他の町で独り立ちして暮らさなければならないという古いしきたりがあり、キキは海の見える大きな町を選ぶが、そこでは13歳の少女に気を配るようなことはなく、キキに不安が募る。
初回の鑑賞は映画館だったが、本作は魔女の存在が認められているだけでそのほかは現実社会と変わらない舞台設定ということもあって、ジブリ&宮崎駿監督のこれまでの3作品と比べると物語のスケールが小さくなり、また、主人公のキキはナウシカ、シータ、サツキというような完ぺき無比なヒロイン像ではなく、思春期特有の難しさを表面化するキャラクターだったことを主な理由として、評価は3.5だった。
しかし、小品だからこそ、難しいキキの内面の移ろいが丁寧に描かれ、愛すべき作品に仕上がっていて、決して映画としての出来は前3作に劣らないことに気づかされた。
もちろん、ベースにあるキキの成長物語を丁寧に描いている演出が良いのだが、本作はラピュタやトトロとは異なり、おとなしさを感じる音楽が秀逸。久石譲の音楽とユーミンの挿入曲2つがとても有効で、前者は前3作ほど目立った主張こそしないが、抑えた演出に貢献。そしてユーミンの2曲は使い方が完璧。ライトでアップテインポの「ルージュの伝言」は街探しに飛び立つキキの気持ちを表現するにぴったり。そして、ラストの「やさしさに包まれたなら」の入りとトンボの乗る人力飛行機とキキの描写からのラストの手紙、最後の「落ち込むこともあるけれど、私この街が好きです」までの締めは、映画史の中でもほんと最高のエンディング。
本作は前3作のしがらみから見事に抜けだしたという観点からも素晴らしい内容で、結局完璧なヒロイン像ではなくても、宮崎作品のヒロインには煤汚れていない稀有な「素直さ」があることが共通点。この素直さがあるからこそ、誰もがかつては持っていた純粋な心に対する懐かしさを感じさせるとともに、主人公を応援したくなる気持ちが醸成されていくのだと思う。
歳をとった今だからこそ、そういうことに気づかされる本作は、今回の鑑賞前の気持ちと裏腹に鑑賞時よりも高い評価を献上させていただきたい。最近観たトトロ、ナウシカもそうだが、何歳になっても感動できる作品を、やはり名作というのだろうな。