「晩春」1949年日 評価3.6
監督:小津安二郎
出演:原節子、笠智衆、月丘夢路、杉村春子他
1990年、2024年7月観賞
大学教授の周吉は30絡みの娘の紀子と二人、鎌倉で暮らしている。戦中戦後の混乱の中で一時期体調を壊して婚期を逸した紀子は、昔からの友人や父親の助手などと気ままに遊びつつも、妻を亡くしている父親の身の回りの世話をする生活に満足していた。しかし周吉自身歳をとり、紀子に結婚の良い話がないかと心配が募っていたところ、妹から良い縁談の話が持ち上がる。
序盤は、能のシーンや当時は珍しかった電車の映像が長く、当時の風俗記録映画的な側面も感じさせてやや冗長だが、中盤以降、主人公紀子の縁談の話が出てくるあたりから小津節が映像・構図的にも演出的にも炸裂してきて、名場面のオンパレードだし、往年の美貌女優として名高い原節子は、演技力が一層際立っているところを見せる。美しくおおらかでありながら頑固で嫉妬深く、世間の楽しみを享受しつつも、外界に飛び込むのに臆病。そんな内面の佇まいを、大きな瞳を中心にした表現力で複雑な主人公、紀子像を完璧に構築。中盤以降は非常に密度の高い内容で推移する。
ただ、3半世紀前に製作された本作で描かれるような、今でいうファザコン的に父親を愛し、見合いをして泣く泣く嫁いでいく若い女性像は現代では受け入れがたいと思う。映画的センスは素晴らしくて、映画が凄く好きな人にはともかく、現代人に本作を薦めることは正直憚られる。34年前鑑賞時の評価は5だったが、私自身は現在、本作で笠智衆が演じた周吉と同じ56歳であり、当時の風俗も、生きる人の心持も理解できるが、今の感覚(30年以上の経過の中で結婚して子供もできて、現代的な考えにも染まってきているし)では評価は落ちてしまう。純粋に昔の感覚で観て楽しんで、映画の芸術性だけでの評価だともっと高くなるのだけど、将来展望を考えると悲しいかな、廃れてしまう内容であると思う。