「異人たち」2023年英 評価2.5


監督:アンドリュー・ヘイ
出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ他

2024年4月観賞

 ロンドンのタワーマンションで一人暮らしをしている40代の脚本家アダム。アダムの両親は彼が12歳の時、自動車事故で亡くなっていたが、ある日、幼い頃に住んでいた家を訪れると、そこには30年前に亡くなったはずの両親が、亡くなった時と同じ年齢のままで生活していた。

 「異人たちとの夏」(以下、「日本版」)では、息子側からの思慕の念と、死んでしまった両親の、息子の成長を観られなかった悔恨の念がほぼ半々の割合で描かれていることで、ファンタジーでありながら、親子双方側からの懐かしい想いと切なさを掻き立てられる感動作品で私は大好きなのだが、日本版との大きな設定の違いは主人公がゲイであること。このため、親子の会話は、息子の性的嗜好を幼いころに理解してやれなかったことへの後悔と謝罪という側面が強調され、描かれる視点の割合は8:2で息子側に寄っていて、親側の死んでしまった無念さという側面はほとんど描かれず、ゲイであることによる生きづらさと苦悩を死んだはずの親の理解も得て、偽らない自分自身を受け入れていく中年男性の物語になっている。

 息子が親に投げかける和解の言葉も愛情表現もその性的嗜好への理解からの言葉と聞こえてしまうので、日本版のような感動を感じることができないのだが、多分本作は、現代だからこその苦悩をどう乗り越えるかという問題点にメスを入れたということが重要なのであり、その点に共感できるかどうかが評価に影響するものと考えられる。

 私自身、同性愛については本人の自由なので嫌悪する気持ちは全くないのだが、主人公のラブシーン自体(しかも男同士)が普通の映画よりも長く、かつ、主演のスコットがゲイということもあってかなり濃厚で、自身にその嗜好がないものだから、正直言ってしまうとかなり気持ち悪いし理解もできない。

 これは映画の良し悪しということではなく、日常的に同性愛者が珍しくもなく存在している製作国イギリスと、まだ憚る気持ちが強い日本では、同性愛に対する許容性によって観られ方が大きく異なるのだと思う。許容はできるが、昔の人間で残念ながら理解ができない私にとってはどうしたって日本版の方が感情をゆすぶられるのは致し方ない。

 また、なぜ両親が肉体をもって蘇ったのかや、ラストシーンも訳が分からない。もちろん日本版でもファンタジーであって現実味は薄いのだが、それでもストーリーとして辻褄はあっていた(と思う)のに、本作ではその点の理解ができないのも評価を落とす要因。