「アイアン・クロー」2023年米 評価3.9
監督:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン、リリー・ジェームズ、ハリス・ディキンソン他
2024年4月観賞
相手の前頭部を鷲摑みするアイアン・クローという技を武器にプロレス界の頂点に立ったフリッツ・フォン・エリック。彼は息子たちを鍛え、プロレス界にデビューさせてきたが、長男は幼いころに死去、三男は日本で病死、四男、五男は自殺と“呪われた一家”と呼ばれた。彼らの生きてきた1970~1980年代を、実話をもとに、同じくレスラーだった次男ケビンの目から描いた映画。
プロレスは1975年から1985年くらいの間、毎週欠かさずTVで観ていたくらい好きだった(特に外国勢が豪華だった全日の方が好きだった)ので、フリッツ・フォン・エリックが全日のリングで戦っていた姿も、次男ケビンが弟と共に全日のリングに上がっていた姿も記憶にある。三男デビッドが日本で急死した記憶も本作の存在を知った時に呼び起された。逆に、フリッツ一家の兄弟はみんな背が高くて肉体美を誇っていた(また、ケビンはイケメン)ため、本作の次男と四男が小柄なのには違和感をもったのだが、役者たちはしっかり体を作り、自らプロレス技を繰り出していてとても頑張っている。
そういう自身の経緯から言うと、ハリー・レイス、リック・フレアー、ブルーザー・ブロディ、テリィー・ゴーディの登場が嬉しいのと、そこそこ似ている役者を配しているのも微笑ましい。
呪われた一家と言われたフォン・エリック家の信じられないようなエピソードの数々が描かれ、一見、一般人からみれば悲惨な人生ではあるのだが、そこから這い上がるとか抜け出すいうカタルシスを感じることはなく、ドラマ部分の感動というのは存外に沸き起こっては来ない。その理由は、父親も母親も息子たちを突き放し、あまり温かい愛情をかけていないように描かれるが、本作はプロレスバカの特殊な家族が背景としてあり、息子たちは父親との会話では必ず最後に「サー」をつける軍隊口調で忠実と尊敬を表し、決して両親を憎んではおらず、基本は一致団結している家族だからだと思われる。
多分、それがフォン・エリック家の真実なのだろうし、生存しているただ一人のエリックの息子ケビンの拘りでもあったのだろう。映画としての盛り上がりには若干欠けるものの、その真実を描いた姿勢は清いものだ。