「落下の解剖学」2023年仏 評価3.7


監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール他

2024年3月観賞

 人里離れた雪積もるフランスの山荘で1人の男が不可解な転落死をし、ドイツ人作家の妻サンドラが殺人容疑で逮捕される。裁判では、サンドラと夫との確執や死の前日の激しい言い争いも暴露され、生前の父親との会話を証言するために、一緒に暮らす11歳の視力障害を持つ息子が証言台に立つ。

 全体的には犯人は誰かというミステリーの体をとっているが、法廷劇というジャンルに分類するのが一番適切。一方で、法廷劇を主題にする映画は数多いが、本作は事件の結末もさることながら、焦点は一般的な夫婦間のいざこざという特徴を持つ。その分、描かれる内容が法廷劇と人間ドラマを往ったり来たりすることが多く、また、それぞれをみっちり描いているので152分という時間は少々長く感じてしまう。

 しかし、法廷劇と人間ドラマの映画的魅力の密度は高い。主演のザンドラ・ヒュラー熱演もあって、人里離れた一軒家における夫婦の実態と子供も含めた精神の葛藤の中に人間という生き物の複雑さも描き切って見応えがある。

 「羅生門」のように真実は藪の中で、誰が本当のことを言っているのかも最後になってもわからない。真相はグレーのまま、11歳の息子の純粋な証言により法の裁きではサンドラは無罪となる。しかし、その証言は息子の記憶によるもので物的証拠は何もないので、無罪へのベクトルの変換はいまいち腑に落ちない。