「真夜中のカーボーイ」1969年米 評価4.2
監督:ジョン・シュレシンジャー
出演:ジョン・ヴォイト、ダスティン・ホフマン、ブレンダ・ヴァッカロ他
1988年、2024年3月観賞
都会女性の男娼になろうとニューヨークに移り住んだ元皿洗いのテキサス男ジョーだったが、現実はそう甘くはなく、何もかもうまくいかない。そんな生活を送るうち、びっこをひく小男で、小さな盗みを繰り返しながらその日暮らしのラッツォに出会い、二人で廃墟に暮らしながら、いつかフロリダに行くことを夢見る。
ジョン・ヴォイドの演技・佇まいや、過去の思い出や夢をフラッシュバックで入れることで、主人公ジョーが祖母の偏愛を受けて育ち、故郷での尻軽女の甘い囁きを真に受けて自分の男性的魅力に自信過剰な、ちょっと間が抜けているが暴力や窃盗はできるだけ避けたいという、心根までは狂っていない純粋な田舎男という人物像が丁寧に描かれる。一瞬だけ映るフラッシュバックで、実は復員兵であることも匂わせて、このジョーという人間に当時のアメリカの問題点を凝縮している。またどうしようもない小物の悪者であるラッツォを演じたダスティン・ホフマンの演技もすさまじく、社会の最低層に生きるしかない、若干歳を取った青年の悲哀が見事に表現された、アメリカン・ニューシネマのど真ん中に位置する作品。
ちょっと頭の弱い犯罪者が自分勝手な夢を見て、現実の世界で儚く夢破れるというストーリーはアメリカン・ニューシネマの名作に多いのだが、このシチュエーションはこの後の「狼たちの午後」などに引き継がれていく。一方このような内容は若い頃にはそれでも心に何かを残すものではあっても、齢を重ねてくると、正直、登場人物たちに共感も憧れも抱けなくなっているのも事実。しかし、他の名作のご多分に漏れず、全体構成的に映画としてはとても良くできている。