「瞳をとじて」2023年スペイン 評価2.5
監督:ビクトル・エリセ
出演:マノロ・ソロ、ホセ・コロナド、アナ・トレント、マリア・レオン他
2024年2月観賞
テレビの未解決事件で取り上げられることになった、かつての人気俳優フリオの失踪事件。フリオの最後の出演作を監督し、友人でもあったミゲルはテレビ局の取材に応じるとともに、フリオの娘へのインタビューなどに協力することになる。
本当にエリセ監督作品なのだろうか。「ミツバチのささやき」「エル・スール」で観られたような、極力セリフではなくて“間”や映像で物語を語り、観る者に考え、感じる間を与える温もりのようなものが感じられない。とにかく登場人物がよく喋り、ストーリーをあらかた言葉で語ってしまうとともに、いくつかのエピソード(昔からの旧友である映像士マックスとの絡み、海辺の住処(キャンピングカー)の住民達との生活など)があるのだが、それぞれが有機的に結びついてもいないので、そこに本作固有の解釈の入り込める余地は少なく、なんだかごく一般的なドラマ映画を観ている感じで、エリセらしさは全くと言っていいほど感じられない。
また、劇中劇として挿入されている映画「別れのまなざし」が冒頭部分とラスト近くで占めて20分ほどあると思うが、これがかなりつまらない。ストーリー的にも、断片であるがラストの場面もありふれた内容で、全く名画然としていないのも、本作を全体として凡庸なものにしている要因となっている。
確かに、現代においてもスペイン内戦の影響が続いているという解釈は取りえるものと思うが、一日本人の私にとってそれはよくわからないし、伝説的な大監督作品を前にしたからといって、忖度してわかったふりをすることも私としてはできない。
とにかく、「ミツバチ~」のアナ・トレントによる、有名な「ソイ・アナ(私はアナよ)」が同じような色調の場面で繰り返されるところが一番の見どころと感じられること自体がおかしい。
エリセ監督作品でなければ、こんなにも話題になることはないのではないか、というのが、私の正直な感想。つくづく、脂がのっていた(と思われる)70,80年代にもっと作品を残しておいてもらいたかったなぁと思う。