「喜びも悲しみも幾歳月」1957年日 評価3.5


監督:木下惠介
出演:高峰秀子、佐田啓二、有沢正子他

1989年、2024年1月観賞

 第二次世界大戦前の1932年から、戦後の1955年まで、日本各地で灯台守として暮らした有沢四郎ときよ子の夫妻。どんな辺鄙な赴任地でも夫婦で力を合わせて生きてきた二人には娘と息子が生まれるが、息子は事故死、娘も結婚した相手の海外赴任で日本を離れることになり結局は二人きりになる。海外へ旅立つ船に乗る娘を灯台から見送る二人は、これまでの人生を懐かしむとともに、将来も力を合わせて生きていくことを誓う。

 物語は、日本各地の灯台を転々と転勤する灯台守夫婦の人生を、第二次世界大戦の空襲や、息子の事故死などという出来事はあるにはあるが、かなり淡々とつづり、敢えて感動をことさらに主張する演出はない。その中で、人情物語を幾重にも重ねることで、人生の過酷さ、その中の幸福感を浮き彫りにしていく。

 辛くって、縁の下の力持ちでしかない灯台守の日常的な生活に煌びやかさは些かもない。しかし人生はほとんどがそんなもの。当時の日常の幸福を感じようとした50年、60年代の日本の観客は、この内容に力を得られたのであろうと思われ、本作は大ヒットを記録している。

 一方、そのような内容だから現代ではこの種の話は映画的魅力はないのだろうなと思う。もうこれは映画の出来の良し悪しとか、面白いかどうかではなく、時代の流れなのだろう。心の中では良い映画とは思うのだが、自分も含めて本作のような内容は現代人の心には訴求しないんだろうな。そして、もちろん本作以降に生まれた私の生活感はそんな現代人っぽいものに変化してきていて、35年前に鑑賞した時、本作の主人公が自分の両親の生きざまにダブって感傷深かったことで評点4.5と評価したのだが、今の純粋な気持ちでは評価が下がってしまうのは致し方ない。