「PERFECT DAYS」2023年日・独 評価3.8


監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、田中泯、三浦友和、石川さゆり、アオイヤマダ他

2023年12月観賞

 東京スカイツリー近くに住む60歳を超えた初老で無口な平山は、渋谷区内にある公衆トイレの清掃員。朝早く起床し、軽自動車で各トイレを回って清掃。終われば銭湯に行き、自転車でほど近い居酒屋で夕食。夜は自室で小説を読んで就寝。そんな生活を繰り返す。ある日、平山のアパートに姪のニコが家出をして訪ねてくる。

 ヴィム・ヴェンダース監督作品は30年以上前に「パリ・テキサス」と「ベルリン・天使の詩」の2作を観ただけ(のみならずジム・ジャームッシュと混同していた。。。)。それらは評論家筋の評判は良かったものの、私にはなんだか意味の解らない作品だったので、その後、他の作品に食指が伸びなかったというのが正直なところ。

 端的に言ってしまえば、現代の日本映画界の至宝、役所広司を堪能する作品と思うが、舞台が日本であるため、規則正しい主人公平山の生活の中にも情緒が感じられることで、平山自身も無口で、姪のニコの登場までほとんど物語に起伏がないのだが、退屈ということは全くない。平山が、60,70年代の渋い洋楽を好んで聴くこと、毎晩読んでいる小説がフォークナーの作品だったり、それだけでかつては何か思慮深い生活をしていたことはうかがい知れる。

 姪の登場以降は、平山が決して無口な男ではないこと、5,6年前以前にはトイレ清掃員ではない仕事をしていたことが判明してくる。また妹との抱擁シーンにより、かつては裕福な層に属していたが何かのきっかけで今の人生を送っていることも窺い知れることになる。しかし、それ以上は何も語られない。最後、観客は、延々と映し出される役所広司演じる平山の表情の変化で、それぞれの心に彼の人生を想像することになる。

 観る者に解釈の余白を多く残す、ヴェンダース監督らしい作品。舞台が海外であったならいまいちピンとこないと思うのだが、日本が舞台で、脚本に日本人が参加していることもあって、人生の奥深さを感じることのできる内容となっている。

 いつも空を見上げて目に微笑を宿す平山の姿には、どんな時でも人の気持ちの持ちようで幸せを感じることができるというポジティブなメッセージを私は感じた。